19戦で表彰台5回。根本悠生の2021年シーズンをリザルトだけで語ればこの9文字となる。しかし、レーシングドライバーとしてチーム、そして自動車メーカーから受ける評価の指針はリザルトだけではない。そこで、ここでは根本悠生の2021年シーズン総括と題して、根本悠生というドライバーにどのようなミッションが与えられ、いかにそのミッションに取り組んだのかという点をフォーカスしてお届けする。海外GTレースという、日本国内では必ずしもメジャーではないレースカテゴリー戦う若手日本人ドライバーに対し、チーム、自動車メーカーがどのようなミッションを与えたのかを紐解くことで、根本悠生が挑んだ2021年の19レースを“ひとつの基準”を持って振り返って貰いたいというのが本コラムの意図だ。

■ジェントルマンを支える使命を背負って

 まず、2月12〜21日にアラブ首長国連邦のドバイ、アブダビの2カ所で4戦が行われたアジアン・ル・マン・シリーズについてだ。2018-2019シーズンは10台、2019-2020シーズンは9台と、両手で足りる台数に落ち着いていたアジアン・ル・マン・シリーズのGTクラスだが、2020年初頭より流行した新型コロナウイルスの影響もあり、2021年度はヨーロッパの強豪や、メーカー系セミ・ワークスチームを含む19台のエントリーを集めた。上位チームに与えられるル・マン24時間レースへの参戦権争いはエントリー台数だけでも激化したことがわかる。

 そのシリーズ争いの激化は、アジアン・ル・マン・シリーズに参戦するドライバー体制にも大きな影響を与えた。根本悠生が挑んだGTクラスでは、FIAドライバーカテゴライゼーションシステムでブロンズに分類されるドライバーを1名起用する必要がある。本来、ブロンズに分類されるジェントルマン(アマチュア)ドライバーの起用を促すためのレギュレーションだが、ル・マン24時間レースへの参戦権を狙う多くのチームはブロンズに分類されるプロドライバー、いわゆる“ブロンズプロ”を起用した。これにより、これまでの通例であった「ブロンズ(アマチュア)ドライバーをシルバー/ゴールド/プラチナのドライバーが支える」という図式が大きく崩れる結果となった。

 Garage59の89号車アストンマーティン・バンテージAMR GT3は、根本悠生(シルバー)の他、アストンマーティンの育成ドライバーのマービン・キルホファー(シルバー)、マイク・ベンハム(ブロンズ)の3人で挑んだ。イギリス出身当時49歳のベンハムはかつてオランダのエネルギー商社で北海の原油取引に従事し、同社が数十億ドル規模の世界的大手石油商社に成長する一躍を担った。近年では投資家としてビジネスを展開しつつ、ル・マン24時間レース参戦を目標にレースを続けている生粋のアマチュアドライバーだ。

 先に断っておくが、ベンハムは決して遅いドライバーではない。レース歴こそ長くはないが、GT3、LMP3カテゴリーを中心に継続してモータースポーツ参戦を続け、複数回のクラス優勝を経験している。ただ、先に述べた“ブロンズプロ”と比較するとペースが劣るのは当然のことだ。世界にはFIAドライバーカテゴライゼーションシステムだけでは測ることのできない“レースの職人”がごろごろいたのだ。

 Garage59というチームはアストンマーティンの育成ドライバーを起用するなど、アストンマーティンと関係が深いチームだったが、決してワークスやセミ・ワークスのような体制ではなく、独立したプライベーターだ。もちろん、ル・マン24時間への切符は欲しいが、ただ参戦権を得ることが目的ではない。チームを資金面で数年にわたり支えてきた仲間、ベンハムとともに挑むことが大前提であり、ベンハムを支えることができるドライバーをパートナーにつける必要があった。そこで起用されたのがアストンマーティンの育成ドライバーのキルホファーと、ランボルギーニ育成ドライバーの根本悠生だったのだ。

 つまり、Garage59がふたりの若手に与えた課題は「ベンハムを支えること」であり、直接的に記せば“補うこと”だった。“ブロンズプロ”を含めプロ3人で挑むチームと比べると不利であり、過酷な道であることは開幕前からわかっていただろう。

 詳細は別途BORDERLESS.LLC.から発行されているレースレポートを確認してほしいが、アジアン・ル・マン・シリーズの全4戦を簡潔に振り返ろう。第1戦ドバイはピットイン直後のFCY導入やパンクといった不運に加え、キルホファーのトラックリミット違反に起因するドライブスルーペナルティも重なり17位。第2戦ではミスも不運もなく一時は2位を走行も、最終スティントを担当したベンハムのペース不足で10位という結果に終わった。

 舞台をアブダビに移して行われた第3戦では序盤に2番手に浮上も、2度のセーフティカーが導入。さらに、FCYが戦略上最悪のタイミングで導入されたことで約1周分のアドバンテージを失い9位に。続く第4戦もトップ走行中に2度のSCが導入され、キルホファーと根本が築いたギャップを失い10位に終わった。

 Garage59の89号車は、全4戦を完走も表彰台に乗ることは叶わなかった。しかし、4戦中3戦で表彰台圏内を走り、“ブロンズプロ”を起用した強豪と対等に戦っていたのだ。不運が続き、ライバルにギャップを築くはずのキルホファーと根本の搭乗タイミングでFCY/SCという展開が続いたことも順位を落とした大きな要因となった。レースに“たられば”は禁句だが、もしFCY/SCがベンハム搭乗中であればリザルトは大きく変わっていただろう。

 リザルトとしては悔しい結果に終わった2021年のアジアン・ル・マン・シリーズ。だが、Garage59とアストンマーティンの根本悠生に対する評価は高いものだった。事前のテストもなく、レースウイークにほぼぶっつけ本番で挑んだにも関わらず、アストンマーティンのワークスドライバーと遜色ないタイムを継続して記録していたからだ。もし根本悠生がランボルギーニの育成ドライバーでなかったら、2021年シーズンに日本人初のアストンマーティン育成ドライバーが誕生していたかもしれない。(2ページ目に続く)

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